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特許の新規性喪失の例外とは?公開後でも権利化するためのポイントを解説

目次

1. はじめに

企業や個人が特許を取得するうえで、最も基本かつ重要な要件の一つが「新規性」です。発明がすでに世の中で知られている(公開されている)場合、その発明は「目新しさ」を欠くとみなされ、特許として保護を受けることができません。しかし実際のビジネス現場では、展示会でのデモやプレスリリース、ウェブサイトへの掲載など、どうしても公開が先行してしまうケースがあります。

こうした「やむを得ず公開してしまった」発明を救済する制度が、新規性喪失の例外(特許法30条)です。一定の条件を満たせば、公開済みであっても“公開されなかったもの”として取り扱われます。2018年の特許法改正では、この例外を適用できる猶予期間が従来の6か月から1年間へ延長され、スタートアップや研究機関にとってさらに利用しやすくなりました。

本記事では、

  • 例外が適用される典型的なシーン
  • 適用要件と手続きの流れ
  • 成功例・失敗例から学ぶ注意点
  • すぐに使えるチェックリスト

などを解説していきます。専門用語はできるだけ噛み砕き、最新の実務ポイントを交えながら「具体的に何をすればよいのか」がわかるようにします。この記事を読み終えるころには、展示会やウェブ公開の前後で取るべきアクションが明確になり、自信を持って知財戦略を進められるようになるはずです。

2. そもそも「新規性喪失の例外」とは?

2-1. 新規性と“公開”の関係

特許を取得するには、出願時点で世界のどこにも公開されていない=新規性があることが必須です。論文やウェブ記事はもちろん、展示会でデモ機を披露したり、プレスリリースで仕様を明かしたり――こうした行為もすべて「公開」に該当し、新規性を奪います。ところが実務では、ビジネス上の理由から発明を先に公表せざるを得ない場面が少なくありません。そこで設けられている救済ルールが新規性喪失の例外(特許法30条)です。

2-2. 例外が使える2つの公開パターン

例外規定では、発明が次のどちらかのルートで公開された場合に救済が認められます。

公開パターン概要典型例留意点
① 自らの公開(行為に起因する公知)権利者自身の意思で情報を世に出したケース学会発表、展示会出展、自社ブログ・SNS投稿、プレスリリース など“自分で出した”以上、本来は新規性喪失。例外を使うには所定の手続き3点(後述)が必須
② 意に反する公開(意に反する公知)権利者のコントロール外で第三者に漏えいされたケース盗難・ハッキングによるデータ流出、守秘義務に違反した無断配布・投稿、記者による無断掲載 など「権利者の意思に反していた」ことを立証できる証拠が鍵

3. 例外が適用される典型シーン

3-1. 自らの公開に起因するケース(特許法30条2項)

発明者や企業自らがプロモーションや情報発信のために公開した場合でも、所定の手続きと期限を守れば「公開しなかったもの」とみなされます。

典型シーン説明注意ポイント
展示会・見本市への出展新製品をブースで実演・配布資料で仕様を開示した場合出展日を証明できる展示会カタログや招待状などを保管することが重要です。
学会・セミナーでの研究発表論文集への掲載、口頭発表、ポスター掲示など発表プログラムや論文 PDF などを証拠として添付します。
プレスリリース・ウェブ記事自社サイトやニュースサイトで技術概要を公開公開ページのスクリーンショットと公開日時をログで残します。
メールマガジンの配信得意先へ一斉送信した製品紹介メールなど件名や配信日を記載すれば、個別アドレスの列挙は不要と特許庁手引きで整理されています。
地域限定・期間限定の販売期間・エリアを絞った試験販売「九州限定販売」のように地域を一つの行為とみなせる旨が手引きで明記されています。

3-2. 意に反する公開(特許法30条1項)

発明者のコントロール外で第三者が情報を流出させた場合も救済対象です。法律上は「権利者の意に反して公開された発明」と定義されています。

典型シーン説明立証のコツ
取引先による無断資料配布NDA で渡した資料を得意先が展示会で配布NDA 契約書・メールログ・配布資料をそろえ、無断であった事実を示します。
社内データの漏えい内部関係者が GitHub や掲示板にソースを公開社内ポリシー・ログイン履歴などで「社外公開を意図していなかった」ことを証明します。
盗難・ハッキング試作品やデータが外部に流出して報道された警察の受理番号やセキュリティ会社の報告書などで漏えい経緯を示します。

3-3. グレーゾーンになりやすい場面

  • 社内限定セミナーや少人数の商談
    • 特許庁 Q&A では「特定少数者との商談は公然性がないため、そもそも新規性を失わない」と明示されています。
    • ただし、その商談行為自体は新規制喪失とならなかったとしても、その後に商談相手がウェブサイトでその発明内容を公開したなどがあれば新規制喪失につながるおそれがありますので、商談時は秘密保持契約(NDA)を結んでおくほうが良いです。
  • βテストやクローズドコミュニティでの公開
    • 招待制で秘密保持契約(NDA)が徹底されていれば公開に当たらないことが多いですが、NDA が不備だと例外申請が必要になる場合があります。

3-4. 判断フロー(簡易版)

  1. 公開予定/既に公開?
    • はい → 2 へ
    • いいえ → 通常の秘密保持下で出願を優先
  2. 公開者は誰?
    • 自分たち → 「自らの公開」
    • 第三者のリーク → 「意に反する公開」
  3. 公開日から1年以内?
    • はい → 4 へ
    • いいえ → 例外適用は不可(原則として特許取得は困難)
  4. 出願時に例外適用を宣言し、30日以内に証明書類提出

以上が「例外が適用される典型シーン」です。次章では、これらの要件を満たすための具体的な手続きの流れと実務上の注意点を解説します。

4. 適用要件(法律上のルール)

4-1. 猶予期間は「公開から 1 年以内」

新規性喪失の例外を受けるには、公開(展示会・論文掲載など)の日から 1 年以内 に特許出願する必要があります。2018 年(平成 30 年)の法改正までは 6 か月でしたが、改正により 1 年へ延長され、スタートアップや研究機関にも利用しやすくなりました。

4-2. 出願時の 「例外適用宣言」

特許出願の願書に「【特記事項】特許法第30条第2項の規定の適用を受けようとする特許出願」と記載して、出願時に例外適用を受けることを宣言する必要があります。これを忘れると、後で証明書類を出しても例外は認められません。

4-3. 30 日以内に証明書類を提出

出願後 30 日以内 に、次の 2 点を満たす「証明書類」(いわゆるエビデンス一式)を提出します。

  1. 公開日が分かる … 展示会の開催日、論文集の発行日、報道記事の掲載日 など
  2. 公開内容が発明と同一である … 掲載原稿、発表スライド、配布資料 など

4-4. 証明書類の具体例と作成ポイント

シーン使える資料例ポイント
展示会での実演出展案内、会期中のパンフレット、ブース写真会期・会場名と展示物の内容が同時に判るものを複数保存する
学会・セミナー発表予稿集 PDF、学会プログラム、講演動画発表タイトルが発明と一致しているか確認する
ウェブ公開Web ページのスクリーンショット、公開日時付きサーバーログURL とタイムスタンプを一体で残す(Wayback Machine なども補助可)
意に反する公開警察届出書、NDA 違反の証拠メール、流出ファイルのハッシュ値「意思に反していた」事実を示す証拠をセットにする

4-5. 手続きフロー(概要)

  1. 公開前後で証拠を確保
  2. 出願書類で例外適用を宣言
  3. 出願後 30 日以内に証明書類を提出

5. ケーススタディ

5-1. 成功例:学会発表後でも特許を取得できたケース

ある大学発スタートアップは、2 月の国際学会でプロトタイプを公開した後、同年 7 月に国内特許を出願しました。出願時に30条適用を宣言し、

  • 学会プログラム(公開日を示す)
  • 発表スライド全文(発明内容を示す)

を PDF 化して提出。さらに公開から 1 年以内・証明書類 30 日以内 の期限を厳守した結果、審査で新規性喪失の例外が認められました。

学びのポイント

  1. 公開日時と内容を同一資料で示す
  2. 「公開から 1 年」「出願後 30 日」の二重期限を管理する
  3. 海外に出す予定があれば各国のグレースピリオド(新規制喪失の例外の適用要件)も同時にチェック

5-2. 失敗例:複数の販売行為を 1 件と誤認し無効になったケース

「ドラム式洗濯機用使い捨てフィルタ事件」(大阪地裁 2017-04-20)では、発明者が A 生協での販売だけを証明書に記載し、同一製品を数か月後に B 生協でも販売した事実を手続きに含めませんでした。裁判所は「A と B の販売は密接不可分とはいえず、それぞれ別個に 30 条手続きが必要」と判断し、特許は新規性欠如で無効となっています。

学びのポイント

  • 公開行為が複数ある場合は原則として すべてについて例外手続きを行う
  • 出願前の販売・デモは社内で一覧化し、漏れを防止する

5-3. チェックリストで再確認

項目OK?
公開行為を網羅的にリスト化した
最早の公開日から 1 年以内に出願した
出願時に 30 条適用を宣言した
出願後 30 日以内に証明書類を提出した
複数公開の場合、行為ごとに証明書を用意した

6. 経営者・ビジネスパーソンのための実践アドバイス

6-1. 社内体制を整える(例)

6-1-1. “公開前アラート”の仕組み

  • 公開予定を一元管理
    展示会やプレスリリースの予定を Google カレンダーなどで共有し、IP 担当が自動で通知を受け取れるようにします。
  • 担当窓口を決める
    例外手続きは期限との勝負です。担当窓口を明確に決めて、確実に必要な手続きが進む仕組みを構築しましょう。

6-1-2. 発明ノート&証拠フォルダ

  • 発明の要点・公開資料・公開日を 同じフォルダ に入れる
  • フォルダ名は「製品名_202506_展示会」など日付入りで管理
    → 後からエビデンスを探す時間を大幅短縮できます。

6-2. 公開前チェックリスト

確認ポイントWhy?
1 年以内に国内出願予定か猶予期間を超えると例外は使えません
発明の本質部分を公開していないかマーケ素材は“ふわっと”説明で可
共同研究・委託先との契約で NDA が機能しているか契約漏れは「意に反する公開」を証明しにくい

6-3. 公開“後”に気付いたら

  1. 最速で出願日を確保
    公開から 1 年を逆算し、まずは仮でも出願してしまうのが鉄則です。
  2. 証拠を集める
    当日の写真、配布資料 PDF、ウェブのスクリーンショット――公開日と内容が同時に示せるものを優先してください。
  3. 30 日以内に証明書類提出
    出願日から30日以内に証明書類の提出が必要なので、しっかり期限管理をして確実に手続きを行いましょう。

6-4. 海外出願を視野に入れる場合

  • 国によってグレースピリオド(新規制喪失の例外の制度)が異なる
    米国・カナダは 1 年、欧州や中国は指定された国際展覧会での公開のみなど要件が厳しい、というように国によって新規制喪失の例外に相当する制度設計が違います。海外でも特許を取りたいなら 公開前に出願 を済ませるのが安全です。

6-6. まとめチェック

  • 出願日が“公開から 1 年以内”か
  • 例外適用を願書で宣言したか
  • 証拠資料を 30 日以内 に提出したか
  • 海外出願のグレースピリオドを確認したか

7. よくある質問(FAQ)

Q1 公開前に秘密保持契約(NDA)を結んでクローズドな商談を行った場合も、例外手続きが必要ですか?

いいえ、特定少数者との商談は「公然性」がないと扱われるため、そもそも新規性を喪失しません。したがって30条の例外手続きは不要です。ただし参加者が多数に及ぶ場合や契約漏れがある場合は“公開”と評価され得るので、NDAの範囲と人数を必ず確認しましょう。

Q2 出願時に「30条適用」を宣言し忘れました。後から補正できますか?

原則できません。願書に例外適用を明示することが絶対条件とされています。宣言漏れのまま出願・審査が進むと、その後に証明書類を提出しても受理されず、新規性欠如で拒絶・無効になるリスクが高まります。

Q3 公開月だけ分かり、日付が特定できません。1年の起算日はどう計算しますか?

「公開の日が証明できない場合は、その月の初日を基準に1年を数える」とされています。

Q4 同じ製品を複数イベントで紹介しました。証明書類は1セットで足りますか?

足りません。原則として公開行為ごとに証明書類を用意する必要があります。異なる展示会・販促イベント・ウェブ公開など、日時と場所が別なら個別に証拠を提出してください。

Q5 海外展示会や海外サイトでの公開も30条の例外に含まれますか?

含まれます。海外でのテレビ放送・展示会出展・ウェブ掲載も対象ですが、日本時間に換算した公開日から1年以内に出願する点に注意してください。

Q6 出願後30日を過ぎて証明書類を出すとどうなりますか?

提出期限を1日でも過ぎると例外適用は認められません

8. まとめ

8-1. 本記事のポイント総整理

  1. 新規性喪失の例外(特許法30条)
    • 公開から 1 年以内 に出願し、出願時に「30条適用」を宣言します。
    • 出願後 30 日以内 に公開日時・公開内容を証明する資料を提出します。
  2. 対象となる公開行為は 2 タイプ
    • 自らの公開:展示会・学会・SNS 投稿など、自分の意思で行う公開。
    • 意に反する公開:無断リークや盗難流出など、第三者による公開。
  3. 公開行為が複数あれば行為ごとに証明書類が必要
    • 日時・場所の異なるイベントや販促活動は、それぞれ独立して取り扱います。
  4. 期限管理が最重要
    • 1 年+30 日の二重期限をカレンダーとリマインダーで可視化しましょう。
  5. 海外出願を視野に入れるなら早めに戦略設計
    • 国ごとにグレースピリオド(新規制喪失の例外の制度)が異なるため、公開前に出願を済ませられるように計画する方が安全です。

新規性喪失の例外は、「うっかり公開してしまったから特許はもう取れないかも……」という不安を払拭できる頼もしい制度です。しかし、制度があるからといって油断は禁物です。公開の瞬間から時計は動き出し、1 年と 30 日というタイトな期限が待っています。だからこそ、公開前に動線を整え、公開後はすぐに出願と証拠集めに着手する――この“スピードと準備”が、発明を守る最大の鍵となります。

本記事が示したポイントを押さえ、チーム全員で情報共有と期限管理を徹底すれば、展示会やプレスリリースを躊躇することなく、安心してビジネスを加速できるはずです。知財戦略は攻めと守りの両輪。例外制度をうまく活用し、大切なアイデアを確実に権利化していきましょう。

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