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特許出願のメリット5選 独占だけじゃない意外なメリットも!

1. はじめに

特許出願というと、「発明を独占してライバルを排除するための制度」というイメージを抱く方が多いかもしれません。実際、特許権を取得できれば自社技術を保護できる点は大きな魅力です。ただし、出願には費用や時間がかかり、審査の結果しだいでは権利化に至らないこともあります。

そうした事情を踏まえてもなお、「出願するだけ」で得られる副次的なメリットがあることは、意外と知られていません。たとえば競合他社に先を越されるリスクの低減や、製品紹介時の信頼感向上などです。これらの効果は、特許権の成立を待たずに発揮される場合もあり、出願を検討する際の判断材料として無視できません。

本記事では、特許制度に詳しくないビジネスパーソンやスタートアップ関係者を主な読者像とし、以下の五つの観点から特許出願のメリットを整理します。

  1. 発明を独占できる(最もよく知られたメリット)
  2. 競合他社に特許を取られるのを防げる
  3. 「特許出願中」の表示が販促につながる
  4. 投資家やVCからの評価が上がる
  5. 金融機関から融資を受けやすくなる

「権利化できなければ無駄」と判断する前に、こうした側面もあることを知っていただくのが本稿の目的です。特許出願を今すぐ推奨するわけではありませんが、検討材料のひとつとしてお役立ていただければ幸いです。

2. 特許出願のメリット5選

メリット①:発明を独占できる(王道のメリット)

特許出願でもっともよく知られている利点は、一定期間、発明を独占的に実施できることです。審査を経て特許権が成立すると、原則として出願日から20年間、他社はその発明を無断で製造・販売・使用・輸入できません。これにより以下のような効果が期待できます。

独占権がもたらす効果実務上のポイント
模倣品の排除自社技術をまねした製品に対して差止請求や損害賠償請求が可能。訴訟だけでなく、警告書(内容証明)による交渉で解決するケースが多い。
価格競争の回避同じ機能を他社が提供できないため、値下げ競争に巻き込まれにくい。高付加価値・適正価格を維持しやすく、研究開発費の回収を計画立てやすい。
交渉カードとして活用ライセンス契約やクロスライセンス交渉で優位に立てる。ロイヤリティ収入を得る、あるいは互いの特許を相殺して訴訟リスクを下げる――など柔軟な戦略が取れる。
市場ポジションの確立独自技術を柱にブランドを構築しやすい。「○○社の特許技術」という認知が競合製品との差別化要因となる。

独占権のメリットを最大化するポイント

  1. 早期出願
    先願主義により「早い者勝ち」です。開発段階で核心技術が固まったら、公開前に出願することで権利取得の可能性を高められます。
  2. 請求項の戦略設計
    権利化後に市場や技術が変化しても対応できるよう、広すぎず狭すぎない請求項を設定しておくと、競合製品への網掛け(カバレッジ)が効きやすくなります。
  3. 権利行使の準備
    実際に差し止めや賠償請求を行うかどうかは別として、**「行使できる体制を整えている」**という事実は、模倣抑止の抑止力になります。証拠保全や調査の手順を決めておくと安心です。

注意点

  • 特許権は国ごとに独立した権利です。海外展開を想定する場合は、必要な国でも出願する計画を立てましょう。
  • 独占権を維持するためには、年金(維持年金)の納付が必要です。製品ライフサイクルや事業計画に合わせてコストと効果を検討してください。

このように特許権の独占効果は、自社技術を守る“盾”となるだけでなく、ビジネス交渉を有利に進める“矛”にもなります。次章以降では、こうした王道メリット以外の“意外な効果”についても詳しく見ていきましょう。

メリット②:競合に特許を取られるのを防げる

日本を含む多くの国は先願主義(早い者勝ち)を採用しています。これは、まったく同じ発明について複数の出願があった場合、先に出願した人だけが特許を取得できるというルールです。もし開発に時間をかけているあいだに競合が先に出願してしまうと、自社が本来生み出した技術であっても権利を取れなくなる――最悪の場合、逆に実施を差し止められる危険すらあります。

1. 先願主義とディフェンシブ出願

  • 早期出願の徹底
    「公開前に出願する」ことが、自社技術を他社の出願から守る最も確実な手段です。
  • ディフェンシブ出願
    特許を最終的に取得する気がなくても、一旦出願しておくことで“公知技術”として先に公開できます。出願から1年6か月後には自動的に公開公報が発行されるため、その内容は新規性を失い、他社は同じ範囲で特許を取れません
  • 審査請求の選択肢
    日本では出願から3年以内に審査請求をする/しないを選べます。将来の事業展開を見ながら、必要に応じて権利化を見送ることも可能です(費用負担の柔軟性)。

2. リスクを抑える具体策

リスク防止策
競合の“先取り出願”コア技術が固まった時点でスピーディーに出願。
社内発表・展示会での情報漏洩発表前に特許出願を済ませる。副次的に「出願済み」を表記して技術力を示す効果も得られる。
自社が権利を取れなくなるディフェンシブ出願+公開制度を活用して競合の特許取得をブロック。

3. 出願コストと防衛効果のバランス

「権利化まで進まなければ出願はムダ」という見方は一面の真実ですが、競合に特許を握られるリスクを回避する保険料と考えれば、出願費用は比較的少額で済むケースもあります(審査請求を見送れば費用は出願料のみ)。自社ビジネスの将来性と特許取得リスクを天秤にかけ、最低限ディフェンシブ出願だけでも行うという選択肢を持っておくと安心です。

ポイントまとめ

  • 先願主義の下では「早い者勝ち」が絶対ルール
  • 一度出願すれば、公開公報が競合の特許取得をブロック
  • 審査請求の有無を後から選べるため、出願コストを段階的にコントロール可能

このように、特許出願は単なる攻めのツールではなく、ライバルから自社技術を守る防御策としても大きな役割を果たします。

メリット③:「特許出願中」の表示が販促につながる

1. 「特許出願中」が与える安心感・独自性アピール

製品やWebサイトに「特許出願中」と明示すると、

  • 技術的に先進的である
  • 法的に保護されつつある
    というメッセージが一目で伝わり、購入検討者や取引先の信頼感アップにつながります。実際、INPIT(独立行政法人 工業所有権情報・研修館)の支援事例でも、出願表示をしたことで想定以上の売上が得られたとの報告があります。(chizai-portal.inpit.go.jp)

2. 競合へのけん制効果

「出願中」の表示を見た競合は、

  • 特許が成立した後の差止めリスク
  • 補償金請求権(出願公開~権利化までの実施料請求)
    を意識せざるを得ません。結果として模倣や類似開発を控える傾向があり、ディフェンシブな役割も果たします。

3. 表示方法のポイント

項目実務上のヒント
表記例「特許出願中」「特願2025-123456号 出願中」など。英語圏向けには “Patent Pending” や “PAT.P” が慣用。
表示場所製品本体、パッケージ、カタログ、Web LP、プレスリリース、展示会パネル等、ターゲットが目にする場所に。
情報開示の程度出願番号を併記すると信頼性アップ。ただし技術内容を詳細に説明し過ぎると社外への情報漏えいリスクが高まるため、程度を調整する。
表示管理拒絶確定や取下げになった場合は速やかに表示を外す。特許法198条の「虚偽表示」には3年以下の懲役または300万円以下の罰金が規定されています。

4. 期待できる販促シーン

  • BtoC製品:パッケージに「特許出願中」を記載すると、店頭での差別化要素になり、消費者の“技術+安心感”を刺激します。
  • BtoB商談:提案資料やデモ機に表示しておくと、技術力・真剣度を示すエビデンスになり、導入検討の後押しに。
  • プレスリリース・展示会:メディアや来場者への“話題性”として有効。競合もチェックしている場なので、けん制効果も同時に得られます。

5. 留意点

  1. 誤認表示は厳禁
    登録前なのに「特許取得」などと記載すると虚偽表示となり、刑事罰の対象になり得ます。
  2. 費用対効果を検討
    出願表示はあくまで“補助的なPR手段”。コストをかけて意匠や商標、広告全体の中でバランスを取りましょう。
  3. 海外展開時の表記
    出願していない国で “Patent Pending” を表示するのは誤認表示に当たる可能性があります。輸出先ごとに確認を。

「特許出願中」の一言は、製品が持つ技術的価値を端的に示しつつ、競合の動きをけん制する“名刺代わり”になります。権利化の結果が出るまでの時間も、上手に活用してブランド力や信頼性向上に役立てましょう。

メリット④:投資家やVCの評価が上がる

1. なぜ特許は投資家に響くのか

スタートアップへの投資判断では、売上やユーザー数のような定量データが乏しい段階でも、技術の独自性や将来の参入障壁が評価対象になります。その裏付けとなるのが特許をはじめとした知的財産です。特許権は「法的に排他的地位を確保できる技術」を示すため、将来キャッシュフローを生む可能性のある無形資産として投資家の関心を集めます。特許庁が公開する知財デュー・デリジェンス(DD)手順書でも、企業価値評価の重要要素として知財DDを挙げ、知財の有無が投資リスクを左右すると指摘しています。(jpo.go.jp)

2. VC側にも知財を見る体制が整いつつある

近年、ベンチャーキャピタル(VC)向けに知財専門家を派遣して投資先評価を支援する「VC-IPAS」などの国の施策が強化されています。これにより、VC自身が知財リスクと価値を評価する目利き力を持つケースが増え、出資前のDDで特許ポートフォリオが注目されやすくなっています。(jpo.go.jp, ipbase.go.jp)

3. 特許が投資判断に与えるプラス効果

投資家視点のメリット企業側に期待される準備
参入障壁・市場独占の裏付け技術が他社に模倣されにくく、長期的なリターンが期待できる。コア技術について請求項の範囲を整理し、カバー範囲を提示する。
エグジット時の企業価値向上M&AやIPOで無形資産として評価額が上積みされる可能性。自社技術と市場での適用シナリオを明示し、ポートフォリオの整合性を示す。
訴訟・ライセンス交渉リスクの見える化DDでリスクが明確になれば安心材料になる。他社特許との非侵害分析を実施し、交渉方針を用意しておく。

4. 実務で押さえておきたいポイント

  1. 早期かつ継続的な出願
    先願主義の下では、シード期からコア技術を出願しておき、中長期で改良・用途展開に合わせて追加出願を重ねるとポートフォリオの厚みが増します。
  2. 知財ポートフォリオのストーリー化
    単に件数を示すだけでなく、「事業モデルのどこで何を守るか」をマッピングして説明すると、投資家が価値を理解しやすくなります。
  3. オープンイノベーションとのバランス
    共同研究先や大企業との提携を想定する場合、ライセンス条件や共同出願の取り決めを早めに整理しておくと、後の資本政策がスムーズです。

留意点

  • 投資家に過大な約束をせず、審査中・拒絶の可能性やライセンス交渉リスクを正直に説明することで、信頼性が高まります。
  • 業界によっては特許よりスピードや営業網が重視される場合もあるため、知財とビジネスモデル全体のバランスを示すことが重要です。

このように、特許は資金調達の「決定打」ではないものの、技術系スタートアップにとって評価を底上げする強力な材料になります。知財戦略を事業計画に組み込み、投資家との対話で適切に示すことが資金調達成功の近道となるでしょう。

メリット⑤:金融機関から融資を受けやすくなる

1. そもそも「知財金融」とは

近年、銀行や信用金庫は事業性評価の一環として 知的財産(IP)を企業の強みや成長力の指標として見る動き を強めています。特許庁は 2014 年度以降、金融機関向けに「知財ビジネス評価書」のひな形とガイドラインを提供しており、200 以上の金融機関が活用 しています。評価書では特許の権利範囲だけでなく、技術が事業にどう貢献しているか、競争優位にどう結びつくかを整理できるため、銀行が“数字に表れにくい将来性”を理解しやすくなる仕組みです。(meti.go.jp)

2. 特許が信用力を押し上げる3つのルート

ルート仕組み期待できる効果
(1) 事業性評価への反映知財ビジネス評価書などを用いて、技術の独自性や市場優位性を定性的に説明財務指標が弱くても、新技術の将来性でプラス評価を得やすい
(2) 知財担保融資特許権そのものを担保として差し入れ、評価額の一定割合で資金を調達不動産担保が乏しいスタートアップ・中小企業でも大型資金を確保できる可能性
(3) 知財を織り込んだ保証・ファンド地域金融機関が知財を重視した独自ファンドや保証制度を運用金利優遇・保証料低減など、一般融資より条件が有利になるケースも

3. 具体的な事例

  • 豊和銀行(大分県)の「知的財産担保融資」
    同行は専門の評価会社と連携し、中小企業の特許・技術を外部評価。その価値の 50%を上限 に融資を実行するスキームを 2011 年に創設し、商標・特許など 23 件・約 51 億円 の実績を上げています。(jpo.go.jp)
  • 知財を使った融資メリットを受けた企業は 25%
    特許庁の中小企業調査では、回答企業の約4分の1が「特許等をきっかけに資金調達が容易になった」と回答。うち 1.8% が特許を担保に直接融資 を受け、14.6% は知財評価を踏まえた融資・投資 を受けたとしています。(jpo.go.jp)

4. 実務で押さえておきたいポイント

  1. 事業との結び付きを示す
    「どんな課題を解決し、市場でどの程度差別化できる特許なのか」を金融機関が理解できる形で整理しましょう。
  2. 評価書や専門家意見を準備
    知財ビジネス評価書のテンプレートは無料公開されています。弁理士や中小企業支援機関に相談してまとめておくと、融資面談で説明がスムーズです。
  3. 審査請求の有無でコスト管理
    まだ事業化前で資金余力が少ないなら、特許出願だけ済ませておき、融資が決まった段階で審査請求する選択肢もあります(審査請求期限は出願から3年)。
  4. 担保型か事業性評価型かを見極める
    担保融資は評価額が明確な一方、評価費用が発生する場合もあります。まずは取引金融機関に「知財を踏まえた事業性評価」の可否を尋ね、条件を比較しましょう。

注意点

  • 特許を担保に設定すると、万が一返済が滞った際に権利を失うリスクがあります。ビジネスの中核技術かどうかを踏まえて判断してください。
  • 金融機関の知財リテラシーには差があるため、説明資料のわかりやすさ専門家の同席 が融資可否を左右することがあります。

特許は「直接お金を生む」だけでなく、資金調達を円滑にする信用力の源泉 としても機能します。研究開発や量産立ち上げで資金が必要になる前に、早めに出願と情報整理を進めておくと、いざというときの選択肢が広がるでしょう。

3. まとめ

特許出願というと「特許権を取得できなければ意味がない」と考えがちですが、実際には 出願という行為自体 にもさまざまな価値があります。今回取り上げた五つのメリットを振り返ると――

  1. 発明を独占できる
    → 模倣を防ぎ、ライセンス交渉でも主導権を握れる。
  2. 競合に特許を取られるのを防げる
    → 先願主義のもと、早期出願は防御策として有効。
  3. 「特許出願中」の表示が販促につながる
    → 技術力を示し、顧客や取引先の信頼を高められる。
  4. 投資家・VCの評価が上がる
    → 無形資産として企業価値を裏付け、資金調達を後押し。
  5. 金融機関から融資を受けやすくなる
    → 知財を加味した事業性評価や担保設定で資金調達の選択肢が広がる。

これらのメリットの中には、特許出願の審査結果が出る前 から享受できるものも多い点がポイントです。もちろん出願には費用と時間がかかり、明細書作成や出願後の管理も必要ですが、メリットを総合的に見ると「検討に値する選択肢」であることが分かります。

  • 技術の独自性や事業の将来性を示したい
  • 競合が多い市場でポジションを確立したい
  • 資金調達の武器を増やしたい

――こうした課題を抱えているなら、一度「出願するだけの価値」も含めて特許出願を検討してみてはいかがでしょうか。特許出願は、必ずしもハードルの高い“ゴール”ではなく、事業を前に進めるための戦略的なステップ になり得ます。

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