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審査待ちを劇的短縮!特許出願の早期審査制度をわかりやすく解説

平均 2.3 か月――これは特許庁が2024年に公表したデータで、早期審査を申請した出願が一次審査通知(FA)を受け取るまでの平均待ち期間です。通常審査がおよそ10か月前後であることを考えると、審査待ちを約70%短縮できる計算になります。

一方で、「事情説明書が公開対象になる」「拒絶理由通知への対応のタイミングが早まる」など、メリットと表裏一体のデメリットも存在します。本記事では 早期審査 制度について、

  1. 制度の仕組み
  2. 適用要件
  3. メリットとリスク
  4. 申請書類の書き方

などをわかりやすく解説していきます。

1. 早期審査制度とは

早期審査(Accelerated Examination)は、一定の要件を満たす出願について 審査着手時期を大幅に前倒し できる制度です。通常審査では一次審査通知(FA)まで平均で約10か月かかりますが、早期審査を申請すると 平均2.3 か月 でFAが届きます。

「さらに急ぎたい」案件向けのスーパー早期審査(Super Accelerated Examination)では、平均 0.8 か月 という驚異的な短縮も実現しています。

1-1 制度の目的

  • ビジネススピードとの整合

     プロダクトローンチや資金調達のタイミングに合わせて権利化を早めることで、市場での優位性を高められます。

  • 審査バックログの削減

     出願人が「急ぐ案件」を自己申告し、審査リソースを適切に振り分けることで全体の効率も向上します。

1-2 早期審査・スーパー早期審査・PPHの位置づけ

制度平均FA期間*主な利用シーンキー要件(抜粋)
通常審査約10か月一般的な出願なし
早期審査2.3 か月国内実施案件、外国出願併行、中小企業など6類型いずれかに該当
スーパー早期審査0.8 か月展示会目前・大型資金調達など極度に急ぐ案件実施+外国出願/30日内応答 ほか
PPH対象国により変動先行庁で特許査定を得たクレームを日本へ迅速展開PPH申請書+対応クレーム翻訳 等

*2024年度実績。

2. 対象出願と適用要件(通常の早期審査)

通常の早期審査を申請できるのは、次の 6 類型のいずれかに該当する出願です。まずはどの類型に当てはまるかを確認しましょう。

類型主な該当例実務ポイント
1. 実施関連出願国内で製品やサービスを実施済み、または近日リリース予定実施を示すカタログや画面コピーを添付すると説得力が高まります。
2. 外国関連出願パリ優先権出願、PCT 出願、外国出願の国内移行優先権証明書類や国際調査報告(WO/ISA)を提出済みなら手続がスムーズです。
3. 中小企業・大学等資本金 3 億円以下の企業、個人発明家、公的研究機関個人および、中小企業とスタートアップ企業の多くがここに該当します。
4. グリーン関連出願省エネ機器、再エネ技術、環境保全技術環境分野の政策追い風で審査官の関心も高いテーマです。
5. 震災復興支援関連出願被災地域企業が行う出願早期審査+手数料減免の併用を検討できます。
6. アジア拠点化推進法関連出願特定事業所の開設計画がある企業認定書類を事情説明書に添付します。

類型はいずれか 1 つを満たせば十分です。複数に該当する場合でも、事情説明書では「最もわかりやすい類型」を 1 つ選べば問題ありません。

個人と中小・スタートアップ企業の場合は、その多くが3の類型に該当します。そのため、ここに該当する場合は、早期審査をかんたんに利用できます

2-1 「早期審査に関する事情説明書」の提出が必須

要件を満たすだけでは早期審査は始まりません。特許庁に対して要件充足を示す書類として「早期審査に関する事情説明書」を提出することが必須です。

  • 提出タイミング:審査請求時または審査請求後、速やかに提出します。

  • 主な記載項目:第4章で解説します。

2-2 スーパー早期審査との主な違い(参考)

項目通常の早期審査スーパー早期審査
類型要件上記 6 類型のいずれか実施関連 + 外国関連 を同時に満たす など
オンライン手続特に義務なし(紙・オンラインどちらでも可)必須要件。申請前 4 週間以降の手続をすべてオンラインで実施
応答期限通常の OA 応答期間(60 日など)30 日以内に応答しないと通常早期扱いに格下げ
平均 FA 期間*約 2.3 か月約 0.8 か月

*2024 年度実績。

3. 早期審査のメリットとデメリット

通常の早期審査を利用すると、一次審査通知(FA)までの待ち期間が平均約 2.3 か月に短縮されます。これは通常審査(約10 か月)と比べて 70 %以上のスピードアップであり、製品ローンチや資金調達のタイミングに直結する“時間価値”を劇的に高めます。

ただし、事情説明書の作成負荷や情報開示リスクなど、事前に把握したいポイントもあります。

観点メリットデメリット/注意点
時間FAまで平均 2.3 か月。市場投入・投資家説明を大幅に前倒しできます。応答期限そのものは通常と同じ(60 日など)ですが、FAが早く届くため実務スケジュールが前倒しになります。延長請求も可能ですが、早期審査の趣旨から抑制が望ましいと特許庁は案内しています。
ビジネス効果技術優位性を早期に証明し、ライセンス交渉・営業・IR資料でアピールしやすくなります。
コスト申請手数料は 無料。権利化が早まる分、投資回収も前倒しできます。先行技術調査や事情説明書作成の工数・外注費が追加で発生します。
情報開示事情説明書は第三者が閲覧可能になります。機微なビジネス計画の過度な記載は避けましょう。
戦略面権利化が早く確定するため、侵害警告・ライセンス交渉で主導権を握りやすいです。拒絶の場合、補正や分割出願を検討できる時間が相対的に短くなるため、初期の明細書の内容の精度が重要です。

3-1 時間短縮によるビジネスインパクト

早期審査の最大の魅力は、特許査定取得時期を事業計画に合わせやすい点です。たとえば「シリーズAまでに特許を1件取りたい」スタートアップでも、平均2.3 か月の審査順番待ちなら十分に間に合う可能性があります。

3-2 追加コストと書類工数

早期審査申請自体に手数料はかかりませんが、先行技術調査や事情説明書のドラフティングには時間と費用が発生します。過去調査データの再利用や弁理士事務所へのアウトソーシングで社内負担を軽減できます。

3-3 情報開示リスクのコントロール

事情説明書は 第三者が特許庁にファイル閲覧請求をすれば閲覧可能になるため、競合に示唆を与える可能性があります。売上目標や顧客名など機密要素は伏せる、機密部分を別紙にするなど、記載内容を精査しましょう。

3-4 前倒しスケジュールへの備え

審査で拒絶理由通知が来た場合、応答期限自体は通常審査と同じですが、早期審査だと最初の審査結果(拒絶理由通知)が早く届く=社内準備期間が短いという実務的プレッシャーがあります。

  • 出願時点で先行技術との差異整理をある程度済ませておく

  • OA対応の責任者・期限管理フローを事前に決める

などをしておくことで、短期対応にも慌てず対処できます。

4. 申請書類・フォーマット

早期審査を申請するときは、要件を満たすことと早期審査希望の旨を伝える 「早期審査に関する事情説明書」 を提出しなければ審査の前倒しは始まりません。事情説明書の様式・記入例は特許庁サイトに公式ひな形が公開されています。

4-1 事情説明書の書き方

―― 類型③ 中小企業・個人・大学・公的研究機関の場合

事情説明書は 「1.事情」「2.先行技術の開示及び対比説明」 の2ブロックで構成します。以下では、出願人が中小企業であるケースを例に記載ポイントを示します。他の類型でも構成は同じなので、該当部分を書き換えてください。

ブロック記載のコツ(類型③向け)例文(抜粋)
1.事情・資本金・従業員数・法人形態 を数値や区分で示して要件該当性を客観的に説明します。出願人 株式会社αは資本金2億円・従業員230人の製造業であり、中小企業基本法に定める中小企業に該当します。
2.先行技術の開示及び対比説明・文献番号、公開日、FI/F-term を一覧化。 ・請求項ごとの相違点と有利効果 を簡潔に比較。 ・出願時の明細書において既に、十分な先行技術・関連技術の調査結果が文献名・公報番号等を上げて適切に開示されている場合はその旨を記載する。 ・PCT 国際調査報告(WO/ISA)があれば引用文献を列挙して代替できます。(1)文献名  出願人は明細書第12ページから14ページにおいて先行技術を十分に開示している。また、その後出願人が把握した先行技術文献は以下のとおりである。  ・・・・・(文献名を記録します)・・・・・ (2)対比説明  ・・・・・(対比説明を記録します)・・・・・

作成手順

  1. ひな形を利用

     上記リンクから基本的なひな形を取得します。

  2. 1.事情を記載

    • 資本金・従業員数・法人形態などを具体的な数値で明示します。

  3. 2.先行技術の開示及び対比説明 を作成

    • 「文献一覧 → 相違点 → 有利効果」の3段構成が読みやすいです。
    • 出願時の明細書中ですでに先行技術との対比説明がされている場合は、その旨を記載します。

  4. 提出

    • 電子出願ソフトで作成した書面をオンライン送信または紙提出

4-2 提出後のタイムライン(目安)

フェーズ期間の目安内容
早期審査選定通知一次審査通知までの間早期審査の対象として選定されたかどうかを知らせる通知書です。
一次審査通知(FA)平均 約2.3 か月拒絶理由通知または特許査定が届きます。
拒絶理由通知への応答60 日(延長可)通常審査と同じ応答期限です。
特許査定応答後数週間〜数か月登録料納付で権利化完了。

まとめ

  • 事情説明書は 「1.事情」「2.先行技術の開示及び対比説明」 の2ブロックが必須です。

  • 中小企業・大学等のケースでは、資本金や法人区分など客観的数値で要件該当性を記載します。もっともこのケースでは要件該当性の説明は容易です。

  • 早期審査申請自体に特許庁の料金(印紙代)はかからないため、書類作成コストと時間短縮効果を比較しながら検討しましょう。

5. よくある質問

早期審査はシンプルな制度に見えますが、申請ミスや思い込みが原因でスピードメリットを失うケースが少なくありません。ここでは、特許庁の公式 Q&A と実務経験をもとに “つまずきポイント” を FAQ 形式 でまとめました。

Q1. 早期審査を申請すると審査が厳しくなるのでは?

いいえ。審査基準は通常審査と同一 です。審査の順番を早めるだけで判断の厳しさは変わりません。

Q2. 先行技術調査はどこまで網羅的に行う必要がありますか?

特許庁 Q&A では、中小企業・大学等(類型③)の場合は「知っている文献のみの列挙でも差し支えない」 とされています。

Q3. 申請後、早期審査選定通知は必ず届きますか?

2021 年の運用変更以降、早期審査の対象として認められたか否かにかかわらず、全案件で早期審査選定通知書が発行 されます。

Q4. OA 応答期限は短縮されますか?

応答期限そのものは通常審査と同じ原則 60 日 です。ただし 一次審査結果 が早く届くため、社内準備スケジュールが前倒しになります。延長請求は可能ですが、特許庁は「早期審査の趣旨に照らし抑制を」と案内しています。

Q5. 出願公開前でも早期審査を申請できますか?

はい、出願公開前でも申請可能 です。その場合、特許庁は公開予定日より前に審査を行います。ただし、早期審査の申請は、出願審査請求と同時またはそれ以降である必要はあります。

Q6. 事情説明書に事業計画を詳しく書いたほうが良い?

“詳しすぎる” 記載は避けるのが無難です。事情説明書は 第三者が特許庁にファイル閲覧請求すれば閲覧可能 になるため、機微情報は必要最小限で開示しましょう。

むすび

本記事では、早期審査制度のしくみやメリットデメリット、申請書類の書き方などを網羅的に解説しました。早期審査は「要件を満たすこと」+「それを事情説明書で端的に示すこと」が成功のカギです。平均2〜3か月で一次審査通知が届くスピード感は、プロダクトローンチや資金調達を控えたスタートアップや、リソースが限られている個人・中小企業にとって大きな武器になります。しっかりと有効活用していきましょう!

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