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新桃太郎⁉こち亀の名シーン5選からゆるく学ぶ著作権法~お茶屋の藤田くんは違法行為をしていた~

こち亀記事第6弾です。今回はこち亀記事として初めて「著作権」を取り扱います。エンタメから芸術まで幅広いジャンルをカバーするこち亀は、実は著作権を学ぶにはうってつけの作品。様々なアイデアが溢れる両さん達の活動には、著作権法にて保護される「著作物」が多く関係しているのです。

著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。

著作権法 第2条1項1号

せっせと思い起こしてみると、著作権が関わるお話は大量にありました。そこで本記事では、筆者が個人的に最も好きな時代であるコミック第80巻~第110巻あたりのお話に絞って紹介していきます。

なお、「著作権」には様々な種類があります。また、著作者の名誉や感情を保護する「著作者人格権」というものもあり、それらは第17条(著作者の権利)にて規定されています。

本記事にて関わるその他規定とともに、以下の図に纏めました。

著作権・著作者人格権の内訳

本記事に関連する主な内容と、著作権・著作者人格権の内訳

今回の記事は、名シーンを振り返りつつ、それが著作権とどう関係するのかを簡単に紹介していきます。難しく考えず、楽しく懐かしく著作権に触れていきましょう!

こち亀名シーン①:写真集に掲載する詩を作成する(著作権法第2条:著作物)

~コミック第82巻「スーパーエディター両津!の巻」~

  • 【概要】アルバイト先の出版社にてアイドル「白鳥なぎさ」の写真集を編集する両津。煙草の不始末により多くの写真ネガが焼失してしまったため、両津自作の詩を載せるなどして無理やり対処するのであった。
こち亀 白鳥なぎさ

コミック 第82巻 P35 より

上述のとおり、著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法 第2条第1項第1号)です。すなわち、両津がいい加減にその場しのぎで書いた詩も、立派な著作物となります。韻を踏んでいて、創作的なステキな詩ですね。

なお、筆者の以下 Tweet は、こちらの両津による「作品」を意識してのものでした。

こち亀 青い空がステキ 白い雲がステキ

青い空と白い雲を見ると、こち亀を思い出します。

こち亀名シーン②:ダビングしたビデオを両津に渡す(著作権法第21条:複製権, 第30条:私的使用)

~コミック第106巻「お茶屋の藤田くんの巻」~

  • 【概要】借りたビデオを返そうと、両津は友人であるお茶屋の藤田の元へ。業務中の藤田に対してビデオを返却しようとしたところ、「それダビングだから両さんにあげるよ」とのこと。
こち亀 藤田

コミック 第106巻 P131 より

両津がニコニコ顔でビデオを返却しようとしたところ、ダビングした物だから貰えるとのこと。しかしダビングしたビデオを友人にあげる行為は、著作権的に問題ないのでしょうか?実はこのときの藤田の行為は、著作権法第21条(複製権)の侵害にあたります。

家庭内で楽しむ目的でビデオをダビングする行為自体は、第30条に規定の「私的使用」に該当し、著作権侵害ではありません。しかしそのダビングしたビデオを友人へ譲渡してしまう行為は、第30条における「家庭内その他これに準ずる限られた範囲内」には当たらず、侵害行為となってしまうのです。

第21条 著作者は、その著作物を複製する権利を専有する。
第30条 著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。

販売して利益を得るわけではないのだから、大目に見てくれてもいいのではないか・・?と考えてしまうかもしれません。しかしこの藤田の行為が合法だと、著作権者にとって大きな不利益ですよね。両津の様に「そうか悪いな」などと言って複製物を受け取るのではなく、著作権者に敬意を持って過ごしていきましょう。

こち亀名シーン③:入場料を取ってテレビを上映する(著作権法第38条:営利を目的としない上映)

~コミック第91巻「突撃!電波・両さん!?の巻」~

  • 【概要】CS放送用のチューナーを友人から入手した両津。入場料を取って、寮の部屋で海外のおげれつテレビ番組を上映することに。
こち亀 テレビ

コミック 第91巻 P90 より

料金を徴収しつつテレビ番組を上映する行為はなんだか「ずるい」ように思えますが、どうでしょうか。著作権法第38条第3項に答えがあります。

第38条
3  放送され、又は有線放送される著作物(放送される著作物が自動公衆送信される場合の当該著作物を含む。)は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金を受けない場合には、受信装置を用いて公に伝達することができる。通常の家庭用受信装置を用いてする場合も、同様とする。

まずは第一文。営利目的でなく、かつ料金を徴収しないのであれば、有線放送される著作物(テレビ番組)を公に伝達(見せたり聞かせたり)することが出来る旨の記載があります。「儲ける目的でなければ、番組を公の人に見せてもまぁいいよ。」というものです。

そして第二文。ここで、「通常の家庭用受信装置」の場合でも公への伝達が可能である旨が言及されています。これは、家庭用テレビを用いる場合には料金を徴収してもOK(権利侵害ではない)という意味です。

放送又は有線放送を通常の家庭用受信装置であるラジオ受信機・テレビジョン受像機等で受信して公衆に視聴させることは、営利を目的としている場合や公衆から視聴料金を取る場合であっても、許されることとしております。

著作権法逐条講義〈六訂新版〉加戸守行著, 著作権情報センター, P306より

なぜ家庭用のテレビ・ラジオだけ営利目的でも上映できるのか?という疑問が生じますが、これは「ラーメン屋の店内でTVを見せる」、「スポーツバーの店内に大型テレビを設置する」ようなケースをNGとすると社会的に混乱が生じるので、例外的にOKとしたようです。

こちらの両津の行為は著作権の侵害行為?という印象があったかもしれませんが、著作権的には問題が無いと考えられる行為でした。(警察官としてのモラル的には・・?)

こち亀名シーン④:絵本「新桃太郎」を作成する(著作権法第52条:無名の著作物)

~コミック第85巻「新説桃太郎!の巻」~

  • 【概要】大原部長が孫向けに桃太郎の絵本を購入。それを知った両津は「桃太郎はインチキくさい」などと言って、いちゃもんをつけ始める。そして両津は、元軍人であるボルボ西郷の助言を受けながら、手りゅう弾やドーベルマンを駆使して鬼ヶ島を攻略する『新桃太郎』の絵本を作成するのであった。
こち亀 新桃太郎

コミック 第85巻 P59 より

『新桃太郎』は、桃太郎の世界観が台無しのハチャメチャ作品です。桃太郎の作者にしてみたら、自己の作品が勝手に改変され憤りを感じそうですよね。もし現実世界にて同じような『新桃太郎』が創作&販売されたら、どの様な問題が生じるでしょうか?

実は、こちらも問題とはなりません。桃太郎は戦国時代~江戸時代に誕生したと言われており、著作権は既に満了しているためです(現在の著作権法第52条によれば、公表後70年にて満了)。そして著者が不明の著作物(無名の著作物)であるため、著作者の遺族への配慮といった観点でも問題は生じません。(著作者がいる場合は、著作者の死後においても「人格的利益」は保護されます。参考情報:「著作者人格権」-パテント2006)

桃太郎の物語はいわゆる「著作権フリー」なんですね。そのため、現代においても様々な翻案がなされた「桃太郎」が誕生しています。最近では例えば一人称シリーズの『桃太郎が語る桃太郎』が出版され、その斬新さからグッドデザイン 2018 金賞を受賞しました。

桃太郎が「桃の中の様子」を語るオープニングは、これまでにない「桃太郎ワールド」。誰でも知っているおとぎ話だからこそ、翻案した時の面白さが伝わりやすく、様々な作品が生まれるのでしょう。

絵本 1人称童話シリーズ

「絵本 [1人称童話シリーズ]」-グッドデザイン賞 HP より

なお、著作権フリーの桃太郎に関して新たな内容が付加された場合、その内容に創作性(著作物性)があれば、「二次的著作物」として著作権が発生します。ここで、「二次的著作物」であるか否かについて争われた裁判例を紹介しましょう。なんと、その争点の1つとして正に「桃太郎」が登場するのです。

この裁判は、出版契約内容や書籍の著作権に関連して、書籍「アニメ昔ばなしシリーズ」の作者(原告)が出版社(被告)に対して提起したものです。例えば桃太郎については、原告は以下主張を通じて物語の創作性(=著作物性)を訴えています。

「この原典の物語の内容は、正義の観念からは、とんでもない反社会的なものであり、将来性のある子どもたちのためにならないし、現代の道徳や刑法に照らしても、鬼が善良な人々を襲い強盗をして集めた宝物を取り返して自分のものにするというのは、盗人の上前をはねる犯罪行為である。」

東京地裁 平成12年(ワ)944号 「争点4(著作権の侵害の成否)について(原告の主張)」より(全文 PDF リンク

原典である桃太郎は反社会的である一方、原告の作品は「独自の観点から、桃太郎が取り戻した宝物を盗まれた人に返し、その感心な行いに対して殿様から褒美をもらうように翻案した(判決文より)」とのこと。つまり、「作品は創作性があるよ」という主張ですね。

しかし、「創作性などを認める余地はない」として以下の通り判示されています。

「持ち帰った財宝を独り占めにしたか、被害者に返したか、人々に分け与えたか等は物語の骨格からすれば枝葉の問題にすぎず、桃太郎という昔話の中では新規性、創作性などを認める余地はない。しかも、原告書籍より前に、財宝を被害者に返したり、殿様から与えられた褒美を人々に分け与えたりする旨翻案している本は複数存在する。」

東京地裁 平成12年(ワ)944号 「争点4(著作権の侵害の成否)について(原告の主張)」より(全文 PDF リンク

原告書籍以外にも似た物語が存在していたというだけでなく、そもそも財宝の扱いについては桃太郎の物語において「枝葉の問題にすぎ」ないとのことです。そして他にも「ぶんぶくちゃがま」「さるかにばなし」等を含め争点はいくつかありましたが、いずれにおいても原告の主張は通りませんでした。その後の東京高裁の判決においても同様です。(東京高裁 平成13(ネ)147, 全文 PDF リンク

なお、こち亀においても、桃太郎に関して「やってる事は強盗団と同じ」との両津のセリフがあります。上記裁判における原告の主張と似ており、これはあながちギャグとは言い切れないかもしれませんね。

こち亀 新桃太郎

コミック 第85巻 P51 より

以上、名シーン④「新桃太郎」は、「日本五大昔話」の1つである桃太郎について、現実の裁判内容ともリンクしたお話の紹介でした。

こち亀名シーン⑤:テレビゲーム内に過度な広告を入れる(著作権法第20条:意に反する改変)

~コミック第100巻「ゲーム営業 両津!!の巻」~

  • 【概要】テレビゲームを制作する電極+(プラス)達。開発メンバーは皆小学生でありメーカーへの売り込みに苦労していたため、両津が交渉役として手助けをすることに。最初は真面目にサポートを行うものの、裏金を貰いつつ、テレビゲーム内に過度なスポンサー広告を入れるという「お決まりの悪事」へと向かうのであった。
こち亀 あたり前田の缶コーヒー

コミック 第100巻 P45 より

出ました!あたり前田の缶コーヒー!「あたり前田」と言えば「あたり前田のクラッカー(商標登録第4693382号), 前田製菓HP」が一般的には有名ですが、こち亀ファンとしてはおそらく真っ先に缶コーヒーが想起されます。

どの程度の方が缶コーヒーを思い浮かべるでしょうか?Twitter 上にてアンケートを行ってみました。(ご回答いただいた方々、有難うございます!)

なんと無残な結果に・・。缶コーヒーは前田太尊にも負けています。(前田太尊:「ろくでなしブルース(森田まさのり著)」の主人公)

本記事が100万PVくらいいけば、「前田=缶コーヒー」が世の中に浸透するでしょうか。いつかこのアンケートは再チャレンジしてみたいと思います。

・・脱線しました。さて、この格闘ゲーム内にて勝手に広告を入れる行為は、著作権的にはどんな問題となるでしょうか。

誰がこの改変を行ったのか明確な描写はありませんが、仮に両津がゲームプログラミングを勝手に改変したとすると、これは同一性保持権(著作権法第20条)の侵害となります。「著作者の意に反する改変はダメ」というものです。

第20条 著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする。

上記改変は格闘ゲームの魅力を損なうものと考えられますし(ある意味面白いですが)、そもそも、仮に魅力が増大する改変であっても、同一性保持権の侵害となります。同一性保持権は、その名前の如く「同一性」が大事なのです。つまり、「より良くするためにアレンジしたんだから許してよ」が通用しません。

同一性保持権は「著作者人格権」の一種であり、著作者の気持ちを保護する権利です。自分が趣味で一生懸命描いた絵に関して、勝手に手直しをされたらどう感じるでしょうか?どんなに下手くそな絵でも、それは自分の思想や感情が表れた作品。それを改変されたら、きっと気分が悪くなってしまいますよね。例えどんなに下手くそでも。

ちざい犬 著作物

矢口貝才とちざい犬(ふわふわ知財4コマ漫画)-筆者 note マガジン」より

絵や詩などの著作物は、その著作者が自分を表現した結果であり、自己の分身の様な存在です。それを「上手下手」といった、評価が容易である一般的な価値軸に勝手に持ち込まず、尊重する気持ちを持って過ごしていきましょう。

まとめ:こち亀名シーン5選と著作権・著作者人格権

以上、筆者が好きな名シーンとともに著作権について紹介しました。他にも多くのお話があり全て紹介したいところですが・・・本記事ではこのくらいにしておきます。以下、冒頭でも貼ったまとめ図です。

著作権・著作者人格権の内訳

本記事に関連する主な内容と、著作権・著作者人格権の内訳

幅広い切り口で日常が描かれたこち亀は、大人になった今でも面白く読めます。そして何より、多くの「知的財産」が関わってくるのです。こち亀×知的財産 については過去に5つの記事を掲載していますので、こちらも是非ご覧ください。こち亀知財ワールドを一緒に楽しみましょう!

・【①特許】:こち亀は時代を先取りする?-こち亀アイデア関連の特許出願紹介 Vo.1-
・【②特許】:こち亀は時代を先取りする?-こち亀アイデア関連の特許出願紹介 Vo.2-
・【③特許】:特許庁の審査官はこち亀好き?-こち亀アイデア関連の特許出願紹介 Vo.3-
・【④特許】:審査官はどうしてもこち亀を参照したかった? -こち亀アイデア関連の特許出願紹介 Vo.4-
・【⑤商標】:モガンボ両津・麗子…普通名称化した商標をこち亀キャラから教わる

(参考文献)
・『こち亀』社会論 超一級の文化史料を読み解く(稲田豊史 著, イースト・プレス)
こちら葛飾区亀有公園前派出所 データベース

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